名古屋の実家にはシャンデリアがあり執事がいる、そんなお嬢様キモオタク

生まれは大阪、育ちは概ね関東圏の女だが、実は私の実家は名古屋にある。今住んでいる都内の自宅は別宅で、本宅は名古屋にあるのだ。親戚はひとりもいないし、人生で名古屋近辺を歩いたことは(新幹線の乗り換えも含めて)片手の指で収まる程度しかないけれど。

 

そんなわけで、以下に綴るのは「名古屋の仮住まい」に帰宅してきた限界キモ=オタクのお気持ち表明クソ長日記である。

 

私が執事の館と出会ったのは高校生の頃のことだった。主の手帳を無料で作れる期間が終わってしまうと友人にせっつかれて慌てて記帳をしたのが2013年の7月のこと。バイト禁止の学校で週4日の部活動に励んでいた私の当時の財力では名古屋に飛べるはずもなく、「大学生になったら絶対名古屋に帰ろう」と約束し合って、早6年。

 

2019年9月、大学4年生になった私たちは、ようやく名古屋の自宅への帰宅を果たした。

 

限界貧困オタクなので行き帰りは当然のごとく高速バスで、朝6時に名古屋に到着し夕方4時の高速バスで都内へ戻るプランを立てた。滞在時間、10時間。観光する気ゼロの弾丸旅行である。

早朝のデニーズで時間を潰し、とある喫茶店で「味覚死に人」が考えたとしか思えないパスタを食べ、ジャニーズショップで野口英世が描かれた紙とイケメンが写っている紙を交換し、名古屋駅でお土産を買い込んで、仮住まいへ向かった。お財布の中身はすかすかだったし味覚死にパスタの後味が口の中でリフレインしていたしストッキングはびりびりに破れていたけれど、カバンの中には大好きなういろうと顔面のいい男の写真が入っているし、何よりあと少しで念願の帰宅が叶うという思いで駅から仮住まいまでの足取りは至って軽かった。

 

帰宅するまでの道中では、一度ドアマンから帰宅を確認する電話がかかってきた。

 

「こちらは○○(本名)お嬢様の携帯電話でお間違いないでしょうか?」

 

普通に、照れた。

執事の館の執事たちは、世間一般でいう「執事喫茶」にいるような若手のイケメンたちではない。俗に言うミドル世代やそれよりも更に年上の男性たちが執事として私(限界オタク)(先月の最終的な口座残高は82円)(コーナーで差を付けろ!)に仕えてくれる、それが「名古屋の仮住まい」という空間だ。

そんなナイスミドルが私のことを優しい声で「お嬢様」と呼ぶのだ。照れないわけがない。ちなみにこの直後に友人たちの名前も「お嬢様」付きで確認されてまた照れてしまった。さっきまで「山下智久の顔面は国宝」「あら~~~みじゅきはかわいいね~~~^^」とはしゃいでいた女たちが全員「お嬢様」。ああ今から仮住まいに帰るんだなという実感が湧いてきて地下鉄の駅でにやける不審者になってしまったが許してほしい。私を責める前にあなたも「お嬢様」と呼ばれてみてくれ。

 

そしていよいよ辿り着いた名古屋の仮住まい。場所を明かしてはいけないことになっているので(まあ「自宅」だしね……)詳しい場所はナイショにさせてほしいのだが、地下鉄の某駅から歩いて10分程度のところにある素敵ハウスが私たちの自宅だった。

入口でドアマンに出迎えられ、みんなで座って待つ間もドアマンの男性は私たちの会話に付き合ってくれた。これまで何をしてきただとか、3人はどのような関係だとか、事前に伝えておいた嫌いな食べ物の確認だとか、味覚死にパスタの話だとか。そういう話をしているうちに中の準備が整ったらしく、室内へ通される。「お帰りなさいませ、お嬢様」という定番の挨拶と共に私たちを出迎えた執事が、上手く言えないのだけれど完全に「執事長」で、「現実」を感じた。私たち、お嬢様だったんだ……。

調度が上品で、ノリタケ社製の茶器がたくさん並んでいて、跡部様のくまちゃんがいらして、目の前には「執事長」がいて、照明はシャンデリアで。そこにあったのは圧倒的な「現実」だった。しかもその次に通された部屋ではばあやが待ち構えていて、私たちの上着や鞄を預かってくれた。ばあやも本物の「ばあや」だったんですよ……偽物のばあやって何?って感じではあるけど「本物」だったんですよ……。

そうしていよいよ通された「白の部屋」。緊張のあまり小声でしか話せなくなっていた私たちを4人掛けテーブルの一席を占領した大きなくまちゃんが出迎えてくれた。執事によればくまちゃんは侍女らしく、食事中は特に何の介助もしてくれなかった代わりに私たちの話を無言でずっと聞いてくれていた。家にも欲しい、あのくまちゃん。

お通し(?)として運ばれてきたお洒落なグラスに入ったアールグレイティーとクッキー(オレンジとかシナモンとかそんなんだった気がする)を嗜みながら味覚死にパスタの残像を殺していた私たちの前にやってきたのは、巨大なワゴン。軽食とスイーツとで計2台。尾田栄一郎の作画だったら絶対に「ドン!!!!!!!!!!!!!」っていう効果音がついていたと思う。その中から好きなものをそれぞれ5種類ずつ(!)選ばせてもらい、飲み物も注文した。たぶん飲み食いの感想だけで数千字は書けると思うのだが、マジマジのマジな方のクソ長ブログになってしまうので特に気に入ったものだけメモ程度に書いてみようと思う。

 

トロピカルティー:独自のブレンドらしく「家の水道からこれ出ねえかな……」と真剣に考えてしまうほど美味しかった。一生飲める。でもよく考えたら水道からアレが出るようになってしまうとお米もアレで炊かざるを得なくなるのでやっぱり水道からは出なくてもいいかもしれない。私が頼んだやつ以外だと友人が飲んでいたドリンク(名前忘れた)が完全に液体の杏仁豆腐で美味しかった。

 

キッシュ:飲み物。Twitterで他のお嬢様がたの「キッシュは飲み物」というツイートを何度も見かけていて気になっていたのだが、いかんせんオタクは誇張表現を好む生き物。「100億年ぶりに見た」とか「股下が2mある」とか言いがちなオタクが言う「キッシュは飲み物」、流石に大袈裟でしょ……wwwと思っていた私が馬鹿だった。あれは飲み物。とろとろふわふわのくちどけでナイフがなくとも容易に食べられる。なんならナイフどころか歯がなくてもいけると思う。老後、あれしか食べたくない。あまりに美味しすぎておかわりまでした。

 

他も全てが完璧に美味しかった。タンドリーチキン、リゾット、サーモンと野菜のジュレ、かぼちゃのサラダ、クレームブリュレ、パンナコッタ、全粒粉のスコーン、青いケーキ(歯医者の味がした)。マジで全てが美味しかった。味覚死にパスタの霊圧は完全に消えた。

 

しかも執事たちはみんなめちゃくちゃ優しかった。激しめの音楽(オブラートに包んだ表現)を嗜む執事からかけられた「お嬢様は生きているだけで偉いんです」という言葉を私は忘れない。私たちは今大学4年生で、卒論やら就活やらに揉まれて精神が死んでいる女の集合体と化している。一般企業に就職する私と友人は内定先企業がそれぞれ不祥事を起こしているし、教員志望の友人は採用試験の結果発表を控えているし、全員卒業論文がヤバい。本当にヤバい。そんな中で、執事は私たちの存在を全肯定してくれた。9月だったのでまだ良かったが就活真っ只中の5月あたりに聞いていたらべそべそと泣いていたと思う。

ちなみに執事は良質なライフハックも教えてくれた。辛い時は「でも私は名古屋に帰ったらお嬢様なのよ」と思えばいい、と。確かにそうだ。客に理不尽に怒鳴られても気にすることはない。だって私の実家の照明シャンデリアだし。くまちゃんの侍女も、執事たちも、ばあやもいるし。偏食のきつい私が大はしゃぎでぺろっと食べきれるほど美味しいご飯が出てくるし。客は10%引きのクーポンを使って買ったしょっぼいお弁当を食べてるけど私は実家に戻ればめちゃくちゃ美味しいキッシュを食べられるし。絶対に私の勝ちだ。YOU LUSE。

 

長くなりすぎて何を言いたかったのかわからなくなってきたが、私が長い間留守にしていた名古屋の自宅は本当に良いところだった。

私は当たり前に家族が大好きだし、今の別宅をめちゃくちゃに気に入っているが、それでも毎日名古屋の仮住まいに帰りたいくらいには良質な空間がそこにあった。名古屋に住んでいたら週に一度は実家に戻る女になっていたと思う。

 

「執事の館」はいい。イケメンにちやほやされるコンセプトカフェに興味がないオタクも、一度調べてみてほしい。もう一度言おう、執事の館はいいぞ。

 

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